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「おもてなし」のヤマダ電機が撤退を始めたワケ

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江口 征男
智摩莱商務諮詢(上海) 有限公司 (GML上海)
総経理

性価比に敏感な中国人はおもてなしは評価せず
南京のヤマダ電機が業績不振で閉店すると4月22日に発表されました。中国で展開する残り2つの店鋪(天津、瀋陽)も近日中に閉店し、中国市場から撤退するという噂も流れているようです。

 昨秋からの反日運動による日本製品不買運動が影響というのが主因のようですが、先日、天津で人通りの多い繁華街にあるヤマダ電機を訪問した際のガラガラ感を見ると、真の原因は別のところにある気がしてなりません。

 ヤマダ電機は中国で、「おもてなしの接客サービス」、「ポイント割引制度」など日系企業である強みを武器に、国美や蘇寧などの大手家電量販店と勝負を試みたものの、ヤマダ電機の強みは中国人消費者には刺さらなかったということでしょう。

 これはヤマダ電機に限ったことではありませんが、中国では(純粋なサービス業ならまだしも)比較的高価な商品を販売する業態において、「おもてなしサービス」に対して価格プレミアム払う消費者はいないからだと思います。

 どこの店鋪でも取扱商品自体に違いがない家電量販ビジネスでは、好むと好まざるとにかかわらず「価格勝負」になります。特に日本人よりも「性価比」(商品価値に対する価格)に敏感な中国人にとっては、「価格の安さ>おもてなしサービス」という評価になるのです。実際、ヤマダ電機だけでなく中国の大手家電量販店の店鋪売上は、価格競争を仕掛けているネット販売に食われて、落ち続けています。

カメラマニアが増えているが付属品が充実した店は少ない
昔の中国であれば、店に騙されてニセモノ商品を掴まされる可能性もあったので、多少プレミアムを払ってでも信頼できる店で購入したいというニーズもありました。しかし、ネットも普及し、消費者の商品知識レベルの上がった今では、よほど怪しい店でない限り本物を売っています。商品でも差別化できない、そして人件費やコンプライアンンス遵守等のコスト構造でもローカル競合に勝てない日系企業には、もはや市場で勝ち残る見込みがないようにも思えます。

 しかし、筆者はヤマダ電機のような業態で、日系企業が勝てる可能性はあると見ています。それは商品本体ではなく、「付属品」で勝負するという作戦です。

 例えば、最近中国では一家に1台は一眼レフを保有していると言われるほど、広く普及しています。それだけではありません。中国では日本以上に、レンズなどの付属品に拘るカメラマニアが多いのです。

しかし、そういった状況にもかかわらず、付属品(しかも本物)を手広く取り揃える店鋪は、上海でもほとんど見かけません。この点に、日系企業は注目すべきだと思います。こういう競争が少なく、利幅の大きい分野でこそ勝負すべきだと思うのです。

 しかも、付属品ビジネスの良いところは、お客様は既に商品自体は購入済で、自分が持っている商品に合う付属品しか購入できないので、ある程度限定された客に対して商売ができるところです。つまり、極端な価格競争には陥らないということです。

 そしてカメラのように、レンズや電池などの付属品に機能や品質が求められる商売であれば、日本での日系メーカーとの関係を利用して品揃えを豊富にすれば中国でも有利に勝負できるはずです。

狙うはマスではなくオタク、職人の拘りを強みにすべき

商品自体のニセモノを取り扱う店鋪は少なくなっているものの、付属品に関してはまだまだニセモノを本物として偽って売られているのが中国です。例えばカメラを購入したときに付属品としてついてくる電池(300元相当)なども、お客様にばれないように純正の電池ではなくニセモノ電池をつけて販売している店鋪も少なくない状況です。

 そして付属品商売で差別化ができるようになれば、徐々に付属品の強みを商品販売に抱き合わせるなどで商品自体の販売でも競合と戦うことができるようになるかもしれません。

 日系企業は13億人のマス市場に目がくらみすぎているような気がします。職人気質の日本企業が中国で勝てる市場は、「商品の知名度」と「価格」で勝負が決まるマス市場ではなく、むしろ職人の拘りを評価し、価格プレミアムを払ってくれるオタク市場ではないでしょうか。

 その意味では、ヤマダ電機のような総合家電小売よりも、カメラのキタムラのように、日系企業の強みが活かせて、かつ中国でもニーズの大きなに領域に絞れるカテゴリーキラーの方が向いているのかもしれません。


2013年6月25日
Diamond online掲載

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