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グローバル人材を考える – Vol.1 2009年9月29日

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福住俊男
グローバルマネジメント研究所 
代表取締役

弊社では月1回のペースで10-20人ほどのグローバル人事に関心を持った方々を集めて「グローバル人材開発研究会」という勉強会をやっています。毎回ゲストスピーカーに自社のグローバル人材育成のやり方を1時間ほど話していただき、その後質疑応答やいろいろなご意見をざっくばらんに1時間半ほど話し合っていただいています。

すでに12回ほどそうした会合をして、様々な方々のご意見を聞き、自分なりにグローバル企業の経営者に求められる能力要件をまとめると次のようになります。

*人間力
  - グローバル視点の思考力・発想力・創造力
  - 自分のアイデンティティとなる価値判断基準

  - リーダーシップ力 
  - グローバルなコミュニケーション力
  - 決断力・実行力
  - 人間育成力
  - グローバルに人を公平に扱う力
  - グローバル・ビジネスへの情熱・熱意

*経営力・管理力
  - マーケティング、販売、生産、経理・財務、人事などの経営機能別知識
  - ビジョン・戦略策定・業務改革・PDCAサイクルの回し方などの各種経営方法論
  - 人を育て動かすための人材マネジメント力
  - 優れたチームを作るためのチーム・マネジメント力
*専門分野の能力 
  - 業界知識、経営機能別知識経験、技術、製品・サービス、人事・組織、ナレッジ管理、IT、経営・管理
*イノベーション力
  - 新規事業企画、業務改革
*個人的資源(時間を守る、アグレッシブな姿勢、仕事への情熱、コミットメントの高さ、コスト意識など)
*異文化対応力
*語学力

経営力・管理力、専門分野の能力、イノベーション力、個人的資質は、必ずしもグローバルでなくても、経営者または管理者という役職から来る当然の要件です。また異文化対応力と語学力をグローバルなコミュニケーション力に含めて考えますと、グローバルに通用するビジネス・パーソンになるために特に必要な能力としては下記の5つが重要であると考えます。

1.グローバルな視点の思考力・発想力・創造力
2.自分のアイデンティティとなる価値判断基準
3.グローバルなコミュニケーション力
4.グローバルに人を公平に扱う力
5.グローバル・ビジネスへの情熱・熱意

まずは「グローバルな視点の思考力・発想力・創造力」について考えて見ましょう。

ビジネスをするときに、常にグローバルな視点を持って何をすべきかを考えることが身についている人は、そう多くはいないと思います。

グローバル視点と言っても、顧客、社員、株主、地域社会などのグローバルに点在する様々なステークホルダーの視点、グローバルにどのマーケットに投資するのが一番グローバル最適になるかといった視点、グローバルに数あるどの技術を使えばグローバル競争に有利になるかといった視点、グローバル組織をどのように作れば効率的な組織運営ができるかといった視点、グローバルに業務プロセスをどのように作り運営すれば最適な仕事の仕組みが作れるかといった視点、グローバルに社員をどのように育成・活用すればハイ・パフォーマンスな社員を全世界的に確保できるかといった視点など、沢山の視点が求められます。

一つの失敗例が、日本の携帯電話機メーカーに見られます。高い技術を持ちながら、グローバル視点が十分なかったために、日本の中でのシェア争いに勝つことに経営リソースを使ってしまい、結果的にグローバルマーケットから撤退せざるを得ない状況になってしまいました。インドのように一番伸びているマーケットで、日本のメーカーが一社も戦えていないのは実に残念な話です。

こうした失敗は、普通の日本人がまずは日本のこと、自分が経験してきたことをベースに考えてから、海外のことを類推し考えることからおきると思います。この日本をベースに考え、類推することを辞めて、最初からグローバルベースに何が最適かを考えることがグローバル人材には求められると思います。そのためにはグローバルに情報を収集・分析し、何をすべきか自分なりの価値基準を持って、的確な判断をし、行動に移す必要があります。

今まで日本でやってきたことがいいのではなく、自分の成功体験や思い込みを一旦わきに置いて、グローバルベースに今何が起きているか、これから何が起きるかを純粋な気持ちで考え、様々なテーマについて意見を持ち、判断ができる人がグローバルな視点の思考力・発想力・創造力を持った人といえると思います。

グローバル人材の第2の要件である「自分のアイデンティティとなる価値判断基準」について考えてみましょう。

グローバル会議などで様々な国の人と話をしていると、相手がこちらの価値観の基準が何であるかということを知ろうとしていることがよくあります。お互い外国人ですから、できるだけ早くお互いを知り合い、スムースな関係を築きたいとの思いが働くからだと思います。

よく日本人だから日本人としてのアイデンティティを持っていないと国際人として認知されないみたいなことを言う人がいますが、日本人的アイデンティティでなくても、一人の人間として、自分の存在価値を主張できるものであれば何であってもいいと思います。ようは自己が確立した一人の大人であるとの認識を周りがしてくれることが大切です。日本人同士でも同じことが言えますが、グローバルチームにおいてはなおさら周りにいる人がほとんど自己を確立している人であるため、価値観を明確に持って意見を言う、または行動をすることが求められます。

時々見られるのが、付和雷同的に、誰かの言う主張に引っ張られ自分の考え方を持っていないように見える人がいることです。人間は不思議なもので、自分の意見にいつも賛成してもらえる人より、多少の引っかかりをしても、チャレンジをしてくる人のほうが、胡散臭くは感じてもその人の存在を意識し、尊敬することができるということがよくあるものです。だから自分の価値判断基準を常にわかりやすく周りの人に示し、自分はこのような人間であると周りに示しておいたほうが、いい関係を作り維持するためにはプラスになることが多いと思います。日本人としてのアイデンティティもあるに越したことはないですが、むしろ一人の人間として、自分がどのような人間であるかをわかりやすく周りに示し、存在感を持って受け入れられるようになることがグローバルな場においては特に大切なのではないでしょうか。

そのためにはすべてのことに対して、自分の意見をはっきりと示すことです。一人の人間として信頼を勝ち取るためには常に一貫した主張と、時と場合に応じた柔軟性を併せ持っていることが必要です。一貫性と柔軟性は一見矛盾しているようですが、自分なりの価値判断基準を持って一貫性を貫くべき局面と、柔軟な対応をとるべき局面とをうまく判断し、周りに自分を納得させることがグローバル人材として大切なのではないでしょうか。

グローバル人材の3つ目の要件「グローバルなコミュニケーション力」ということについて考えてみましょう。

グローバルなコミュニケーション力と言えばまずは英語力でしょう。英語力は高いに越したことはないですが、私見ではTOEIC800点程度の英語力があれば、まずはビジネス会話はできるのではないでしょうか。大切なことはTOEICの点数より、ネイティブ・スピーカに対しても世界の誰でもが理解しやすいインターナショナル・イングリッシュを話すよう要請するずうずうしさと度胸だと思います。私は以前、日本に赴任してきたばかりのアメリカ人が、あまりにも早口で南部訛りの英語を話すのを見て、彼に日本人と英語で話す上での注意点を理解してもらおうと、日本人のジャパニーズ・イングリッシュの先生を付けたことがありましたが、結果的にはそれが彼にとっては日本でのコミュニケーションをしやすくすることに役立ったと思います。グローバル企業においてはネイティブ・スピーカをも含めてインターナショナル・イングリッシュを話すように仕向ける必要があります。

英語力の次のテーマは異文化コミュニケーションの理解です。日本国内でも地域が異なれば誤解が生じやすくなるように、異なる国の人とのコミュニケーションにはさまざまな誤解が生じます。お互いが育った文化的背景の違いを理解することにより、こうした誤解を生じないよう、お互いが努力することが必要だと思います。
コミュニケーションの三番目のテーマは自分の言いたいことを論理的に整理して伝える、論理的思考能力と、論理的話し方、さらに相手の言ったことを論理的に聞くためのロジカル・リスニング力が必要です。異なる国の人と阿吽の呼吸で理解し合うことは期待できず、きちっと論理的な会話をすることが求められます。

四番目のテーマは、会社という組織体においては、業務プロセス設計の基本コンセプトやルール、ガイドラインなどをある程度グローバルに共有化することです。こうした業務の標準化をある程度しておかないとグローバルに協業をして、グローバル最適な経営の仕組みを作りたくても、言葉の定義が違ったり、そもそもグローバルにナレッジの共有をする価値が出せなかったりして、グローバル最適な仕事の仕組みを作ることができません。

企業という組織体において、コミュニケーションの五番目のテーマはミッション、ビジョンなどの経営価値観や行動原則をグローバルに合わせ、経営戦略を共有化してグローバルに社員のベクトルを合わせる事です。グローバルチームを作り協業を促進したくてもメンバーが共通の価値観や方向性を持たなければ、なかなか議論がかみ合わず、協業どころかその価値すらお互いに認識することができず、グローバル最適な経営を行うことは難しくなります。円滑で建設的なコミュニケーションを行うためには価値観と方向性の共有は不可欠です。

「グローバルに人を公平に扱う力」と「グローバル・ビジネスへの情熱・熱意」については、次回のコラムで解説をします。

Vol.2へ続く

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