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はじめに夢ありき~第5回「人と組織をプロジェクトで鍛える」

mitsutomi

成果成長主義のなかで、有効に業務を進める方法論はあるだろうか。この問いの解答として、私はプロジェクト手法 を提案したい。プロジェクト手法は成果成長主義の要件の一つである、オン・ザ・チャンス・トレーニング(OCT)を多くの人に対して可能にし、その過程で 人も組織も成長することができるからだ。今回はプロジェクト手法をうまく進める方法も含めて、プロジェクト手法について解説する。


1.プロジェクト体験で
新人のうちから鍛えよう

私が入社して2年目のことだった。労務課の若手を集めて一つのプロジェクトが立ち上がった。題して「新入社員に涙を流させるプロジェクト」。与えられた課題は「新入社員を入社式で感動させろ」。成功の基準は「誰か1人でも新入社員が涙を流したら成功」といわれた。
これが私にとっての初めての「プロジェクト」経験であった。いろいろな人が集まるといろいろなアイデアが出るものだ。結局、その年の入社式では、長崎出身 の新入社員の実家へ式の最中に電話。状況を伝えて母親と息子に話をしてもらうというアイデアが採用された。式当日。突然の電話に、母親はついに感極まって 泣き始めた。つられて、新入社員の何人かが涙を流した。
ホンダでは早い時期からプロジェクト手法で仕事を進める方法が定着していた。1981年 にナイジェリアに二輪車工場を建設することになったが、その立ち上げ支援プロジェクトに私も参加した。人事総務の就業規則や給与体系、福利厚生などの制度 や施設を構築するのが私の仕事だった。何もわからないままにナイジェリアへ行き、他社の工場で話を聞いたりして試行錯誤した。これは私の初の海外業務だっ たが、このプロジェクトが自分を随分鍛えてくれたといまでも思っている。
ホンダという組織全体を見ても、小さなものから大きなものまで80年代 には無数のプロジェクトが動いていた。課内プロジェクト、部門プロジェクト、部門間プロジェクト、そして全社を上げて取り組む企業プロジェクトもあった。 ナイジェリア以降も、世界各国に工場建設を進めていったが、それらもすべてプロジェクト形式で行われた。また企業の体質改善運動や環境保護活動など、さま ざまな種類のプロジェクトが実施された。
成果成長主義のなかでどのように仕事を進めるか。最適解ではないかもしれないが、私はプロジェクト手法 が非常に有効な方法だと考えている。プロジェクトは大きな組織変更を必要としない。そのため必要なときに最適のメンバーを集めて活動を展開できるという柔 軟性、即応性が高い。同時にそこにかかわる人材にとっては、一つのオン・ザ・チャンス・トレーニングとなり、大きな成長を得られるのである。このようなこ とをあえて言うのは、いろいろな企業の方とお会いした経験からすると、意外とプロジェクト展開がうまくない企業が多いと感じているからだ。特に人事・教育 部門は苦手だなと感じることがある。

2.プロジェクトマネジメント
成功のための4つの要件

一般にプロジェ クトとは、「独自の成果物またはサービスを創出するための有期限の活動」などと定義されている(『PMBOK』より)。しかしこのように言われると、何か とても難しい、扱いにくいもののように感じるのではないだろうか? 私はプロジェクトとは「凡人のチームワークによる、研究開発・課題展開活動」だと定義 している。このように考えればプロジェクトは日々の業務の延長線上にある、手に届くものになってくると思うがいかがだろう。
プロジェクトは難しいものではない。身近なものである。アメリカでは小学生でも「プロジェクト」を行う。「チームで何かの活動を行う」といった程度の意味合いなのだ。英語では日本語で「課題」という場面で、themeではなくprojectを使うことも多い。
プロジェクトの付加価値は何と言っても人が育つことだ。やりたいことがやれる場の提供であり、チームメンバーの自己実現につながる。企業はもっとプロジェクトを活用することで、自由闊達なチャレンジ精神旺盛な企業風土を醸成し、動的な組織を生み出すことができる。
プロジェクトを成功に導くプロジェクトマネジメントとは、「目的達成に向けての凡人によるチームプレーとそれを束ねるマネジメントのうまさ」のことだ。プ ロジェクトはPMBOKによれば9つの観点からマネジメントする必要があると述べられているが、わかりやすく分類し直せば、4つの観点からのマネジメント となる。すなわち①期限内にプロジェクトを完成させる(スケジュールリスク)、②予算内にプロジェクトを完了させる(コストリスク)、③成果物は規定され た品質基準を上回る(テクニカルリスク)、④①から③の総合的な成果として、ステークホルダーの満足度を満たす(トータルリスク)である。プロジェクト完 了時にこの4つの課題を達成していることが重要だ。
マネジメントと合わせて押さえておきたいのは、プロジェクトの成功要件である。要件は4つ。1つ目の要件は、プロジェクトの目的に大義があるかどうか。構想段階からその目的、目標に大義と志があり、さらに志を関係者全員が共有することが必要だ。
2つ目の要件はアイデアを出すこと。プロジェクト遂行にあたって「アイデア創出の四戒」を守ることである。これはアイデアを生み出すチームづくりに欠かせ ないルールのこと。①共通の目的を持つ、②実践の場を共有する、③自由で平等な議論の場をつくる、④異質を混在させる、の4つだ。これはホンダの3代目社 長の久米是志氏が考えたものだが、さらに久米氏は大乗仏教の六波羅蜜にヒントを得て「ヒラメキの知恵創出法」も編み出した。ちなみに六波羅蜜とは悟りに到 る6つの徳目(布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧)のこと。
①自他非分離の心をつくる(高い志の目的)……技術は人に奉仕するためにあると考え、実行するのが利他行。買って喜ぶ人を見てつくった喜びを感じるのが自他非分離である。「高み」に自分自身が目指すところを置くことで、考えに方向性が生まれる。
②アイデア創出の四戒を守る。
③失敗の経験と自己否定……成功の前には散々な失敗経験があり、大きな恥をかいている。自分の書いたシナリオにはどこか自己中心的なものがあり、それが失敗を生みだしたことを認める。
④不断の研究と努力……答えの出ない苦しみとの闘いに向かって「何とかなるさ」の気持ちでこつこつと取り組む。
⑤無我夢中……答えの出ない辛い仕事であっても何とか取り組んでいるうちにだんだん面白くなり、気がつくと無我夢中になっている。
⑥無分別知……最後の最後まで悩み抜き、ひたすら対象に執着したあげく「ああ、もうだめか」と諦めるときがある。そのようなときにふっと意識の奥から生まれてくるものが無分別の智慧、ヒラメキである。
最後の無分別知によるヒラメキは、一種の悟りである。
プロジェクトの成功要件3つ目は、段階的にステップを評価しながら進めていくこと(段階的な進捗管理)である。一定の区切りで評価会を実施し、そこでプロ ジェクトを進めるか、いったん戻すか、中止とするか等を検討する。目的を達成するための手段の輪郭をほぼつかんだ段階で、評価会を1回。もちろんここで GOかSTOPかが決定される。
次に手段の全容がほぼ明らかになり、必要な成果が得られる見通しが立った段階で再度評価会を開く。ここでも GOかSTOPかが出される。次に細部の不具合が修正され、手段が完成し、必要な成果が得られることが確実な段階でまた評価会を開く。この評価会ではメン バーの「喜びと悲しみが浮き彫りになる」。そこまでのプロセスをしっかりと捉え、適正な評価を行うことが重要だ。
成功要件4つ目は、プロジェクトにGO、STOPをかけることで、臨機応変な対応を可能にすること。計画の見直しやその対応・情報共有化がなされなければならない。

3.プロジェクトを進める
7つのステップ

次に具体的にプロジェクトを進めるための7つのステップを紹介しよう。
ステップ1は「プロジェクトの目的・目標・目標要件の設定(プロジェクトアップ)」だ。問題・課題の提起からテーマの設定を行い、それに沿って目的・目 標・目標要件を設定する。こうしたい、ああしたいというステートメントとその理由を明らかにし、それを共有化するのだ。いわばこれは、迷ったときに戻って いく「原点」をつくる作業。プロジェクト成功を大きく左右するといっても過言ではない。
また目標は改善目標、問題解決目標、革新目標の大きく3つに分類される。目標の明確化とは、具体的に計測できる達成可能で合理的な目標とすることであり、達成時期も明示する。
ステップ2は「目的・目標の共有と目標のブレークダウンによる権限委譲」である。これはチームメンバーとの目標共有化の段階だ。
プ ロジェクトリーダーは自分の言葉で想いや志を語る。メンバーは理解するまで質問を繰り返そう。このベクトル合わせを踏まえてサブリーダーを決定し、作業分 割と必要な権限委譲が成立する。改めて権限委譲といわなくとも、サブリーダーを決定し役割分担をすることで、プロジェクトがメンバー1人ひとりのものにな る。
ステップ3は「目標達成期限からの個々の展開計画の作成」である。目標達成期限から逆算で大日程を設定し、これをもとに役割分担ごとの展開計画を作成する。このとき5W2Hでまとめるのがポイントだ。さらにPPA(潜在的問題分析)を行い、リスクも洗い出す。
ステップ4は「ワイガヤ等による施策展開のアイデア創出と課題展開」の段階である。「当初の施策プログラム」→「スタディ(学習・調査他)」→「ワイガヤ (ブレスト)でアイデア玉出し」→「案の創出」→「展開」となり、いったん展開した後、再び「スタディ(学習・調査他)に戻ってこのサイクルを繰り返す。
「ワイガヤ」を有益に展開するための絶対ルールがある。それは①ワイガヤに肩書きを持ち込まない、②全員必ず発言する、③否定しない、の3つである。ワイ ガヤで「課長がそう言うから、それに従う」といった雰囲気は絶対にあってはならない。また1人だけが話しているのも最悪だ。これは立場が上のものが特に意 識する必要があるだろう。
ステップ5は「実行計画の立案とパイロット展開(計画修正)」、実行計画を5W2Hで作成し、関係部門への周知を図る。そして実行計画をパイロット部門でトライし、その評価で計画を修正する。
ステップ6は「実行と管理項目による進捗管理(計画修正)」である。プロジェクトの成功要件3つ目で説明した内容だ。
ステップ7は「目標達成レベルの評価と達成感の共有」を行う段階である。

以上、プロジェクトをうまく進めるポイントを簡単に説明したが、要はプロジェクトを特別なものだと思わず、日々の業務のなかでもプロジェクト的な考え方で 業務を進める習慣を付けることである。また、できるだけ手を上げた人にやらせる形を取るのがよいだろう。会社のなかには無数のプロジェクトが動いているよ うなもの。小さなものでも言い出した人にやらせてみる。このような体制をとり続けることで、個人はもちろん組織そのものも鍛えられるのではないだろうか。 成果と成長の両立にはプロジェクト手法の導入をお勧めしたい。

グローバルマネジメント研究所 取締役パートナー
光富 敏夫

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